こんにちは、「南紀ローカル通信」の枯木屋ユージンです
今回は、マイケル・チミノ監督の映画『ディア・ハンター』のレビューです。
公開:1978年(アメリカ合衆国)183分
監督:マイケル・チミノ
出演:ロバート・デ・ニーロ(マイケル)、クリストファー・ウォーケン(ニック)、ジョン・サベージ(スティーヴン)
出典:Diana Parkhouse Pixabay
ベトナム戦争がテーマの映画と言えばこのふたつ
ベトナム戦争がテーマで最も有名な映画は、フランシス・フォード・コッポラ監督の『地獄の黙示録』と、今からお話しするこの『ディア・ハンター』だろうと思います。
1979年公開当時は凄く評判になって、私は土曜日の先行オールナイト上映に映画館へ足を運びました。
こんな映画をオールナイトなんかで観に来る人は、暇つぶしとか電車の始発待ちで映画館に立ち寄った人達ではなく、はっきりとこの映画が目的です。
当然客席は、迷惑な話し声やスナック菓子を食べる音もなく、静まり返っています。
そして誰もが知るあの(ロシアンルーレット)のシーンになると、さらに深く静まり返るのをひしひしと感じました。
それほど強烈な映画だった。
このレビューを書くために、ディア・ハンターをもう一度観ようとは思っていたものの、なかなか実行に移せませんでした。重くて長い映画ですから。
でも頑張って2回目を観賞してみると、やっぱり重くて長い。
しかし、観終わると「あぁ、観て良かったな」と思うのです。
簡単にですが、この映画の流れと感想を同時に説明していきます。
アメリカ合衆国のロシア系移民の町(クレアトン)に暮らす若者たちの日常描写から始まります。
ロシア系という設定、初めは少しひっかかりました。
戦争という矛盾点をしっかり浮かび上がらせてはくれるけど、わざとらしくないか?
しかし、ロシア系が少数派であっても当事者にとっては100パーセント現実だし、映画や小説が不自然でないように登場人物を最大公約数の人々に設定にするのは、不自然そのものだ。
その論理だと、民族や国家が違えば戦争があってもいいことになってしまう。
民族や国家が同じであろうとなかろうと、人と人が殺しあう矛盾点になんの違いもないではないか。
なので、この設定はしっかり受け入れたい。
私の自問自答は、グルグル回転しましたが、すぐにこの結果にたどり着いたわけです。
製鉄所で働く
マイケル、ニック、スティーブンの3人は徴兵でベトナムへ行くことが決まっていて、それなのにスティーブンは結婚することまで決まっています。
スティーブンの結婚式や3人の壮行会を軸に、幼馴染であろう男同士の人間関係や周囲の女性たちとの恋愛感情が丹念に積み重ねられてゆくのですが、長いのはこのパート。
しかしです、必要な長さではないかと改めて感じました。
今の時代、前置きなんて必要ないと思いがちですが、前置きがしっかりあるからこそ、しっかり伝わることもあります。
楽しいことがない訳でもないけれど、スカッとする事がない日常生活、薄暗い町の風景。
観ている者に最大限、同じ心理を要求しているのではないかと?
結婚式のシーンでは
遠い親戚付き合いで、自分も本当に出席している気分にさせられました。
仕方がないので、同席しているオバサンたちの顔や体型、服装や仕草の可笑しさを探してしまうほどです。
マイケルとニックに関わる女性(リンダ)役のメリルストリープが、よくアップで映し出されますが、若い時はこんなに可愛かったんだなと再認識しました。
ちょっと失礼か?
この長い日常のあと
何の経緯説明もなく、
ヘリコプターの音と重なり、大きな爆撃音とともにいきなり戦場シーンへ飛びます。
この静と動の切り替えは、見事だ!
「映画とは、こうやるんだ」と、言っているみたいです。
状況さえはっきり理解しないままにマイケル、ニック、スティーブンの3人は北ベトナム兵の捕虜となり水牢に閉じ込められていました。
次のシーンではまた説明抜きで、あのロシアンルーレットへ飛びます。
極限状態へ飛んでさらに極限状態へ飛ぶ。
観客は深く静まり返る。
この時点で私は、フィクションだとか、俳優の演技だとか、そんなことは、どうでもよくなりました。
ただただ映画に引き込まれた。
と言うものをこの時に初めて知ってからは、おもちゃのピストルで真似事をしたり、そんな罰ゲームをしている光景を見ても、楽しくはありません。
この後の展開は
どうなるのか? それは、やはり是非映画を観て欲しいと思います。
若い人はこの映画そのものを知らない人もおられるでしょう。
出典:buian_photos Unsplash
初めてこの映画を観たときは、構成をそんなに意識しませんでしたが、2回目を観るとストーリー自体はビシバシ決まっている事が分かります。
抽象的に言いますが、最後の最後をもし逆にしていたら、この映画の印象はどうなったんだろうか? という考えもあります。
題名のディア・ハンター
主人公たちが鹿狩りをするシーンが二度あって、ベトナム戦争がテーマの映画ですが、ディア・ハンターなのです。
私には、この意味をはっきりとは説明できません。
ただ日常と戦場の中で、ほんの短い鹿狩りのシーンは気分転換になっていることは確かです。
最後ですがこの映画の音楽
曲だけ聴くと、戦争がテーマの映画とは思えない、静かでしんみりとしたアコースティックギターの演奏。
だからよけい、ロシアンルーレットの極限状態が悲しく、ただの日常が美しく儚く思えてきます。
映画を初めて観たときから、私の中では名曲の中の名曲になりました。
もう映画は観ないかもしれませんが、たまに曲は聴くのでしょう。
こんなデジタルの時代、どんな事でも煩わしさを省略したくなりますが、時間の長さも含めて、一度だけ映画の中に埋没してみる気持ちになられたでしょうか?
レビューは以上です。
ではまた、次の記事でお会いしましょう
2022年1月14日 記