南紀ローカル通信

スキューバダイビングやキャンプ、映画や本などについて綴っています

何度もパンチを食らわされた小説『ぼっけえ、きょうてえ』

こんにちは、「南紀ローカル通信」の枯木屋ユージンです

 

今回の、本の紹介は小説『ぼっけえ、きょうてえ』です

 

1999年 出版

岩井志麻子 著

 

出典:Pngtree

読者に対して何度パンチを食らわせるのだ!

 

まず、本のカバーの絵を見てドキッとしました。

 

甲斐庄楠音(かいのしょう・ただおと)作『横櫛』と言う大正時代の日本画らしい。

美人画なのか、幽霊画なのか、妖怪画なのか、どう感じてよいのかさえ戸惑ってしまう。

 

それで、本の題名『ぼっけえ、きょうてえ』ってなんだ?

岡山弁で(凄く怖い)と言う意味らしい。

 

一瞬で興味が湧いたのに、なにか気持ち悪くて手にしたくない。

 

この本はもうこれだけで勝利している。

 

実際、読んでいてページをめくる時、触れる面積が出来るだけ小さくなるように、親指と中指で摘まんでいました。

 

この本を通じて岩井志摩子が、テレビのバラエティー番組でチラッと見たことのある、豹の着ぐるみの謎の人物だと知った。

 

読者に対して何度パンチを食らわせるのだ!

 

明治、大正時代の岡山を舞台にしたホラー小説。

民話、迷信風の短編『ぼっけえ、きょうてえ』『密告箱』『あまぞわい』『依って件の如し』の四つで構成されています。

 

硬質で的確で無駄がない文体なのに、ドロドロの世界を描写して、それはどこか叙情的にさえ感じます。

なおさら怖い原因はこのあたりでしょうか。

 

なかでも私が一番好きなのは『密告箱

世間にコレラが流行し、感染者を密告させるために置かれた箱。

その中に祈禱師の娘(お咲)の名がいくつも出てくるところから、村役場に務める(片山弘三)が調査を始めるというストーリー。

 

はやり病がまず怖いし、これを調査するのがまた怖い。その相手、お咲は祈禱師の娘。

これでは何もかもが、ただでは済まないでしょう。

この一遍は本当に岩井志麻子ワールドが展開しているように思います。

もちろんストーリー自体がそうなのですが、それよりも男の心理が手に取るように解って、小説を書いているように感じる所がいくつもあります。

 

疫病が蔓延していて、自分が感染する可能性がある状況の中にでさえ、女のエロスを感じ取ってしまう男。それを読む側も同じエロスを感じ取る。

それを小説に書く岩井志麻子

 

女に見透かされるだけで、もうホラーだ。

 

私はこの本を家に置いておいて、カバーの画が見えると怖いのです。

幸いこの本は人が貸してくれたので、読み終わるとサッサと返しました。

横櫛はネットでも観ることができるし。

 

私のような人は、図書館で借りて読んで返すのもありかなと思います。

 

ではまた、次の記事でお会いしましょう

 

2022年3月29日 記