南紀ローカル通信

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神経が張りつめたままになる小説『OUT』

こんにちは、「南紀ローカル通信」の枯木屋ユージンです

 

今回の、本の紹介は小説『OUT』です

 

1998年 出版

桐野夏生 著

 

出典:Matthieu Bühler Unsplash


話の面白さ、グロさ、立ち入りたくない精神世界

 

もちろん、このミステリー小説のことは、聞き覚えがありました。

何年も経ってから、たまたまこの本を手にする機会があり、読んでみただけなのです。

しかし「たまたま」などとは言ってられない小説でした。

 

深夜から朝まで、弁当工場で働くパート従業員の主婦(香取雅子)

ある日、職場の同僚の(山本弥生)がギャンブル狂いのろくでもない夫を殺害。

 

香取雅子はその弥生から電話で助けを求められます。

その雅子はどうしたのか?

あろうことか、警察へ連絡するのではなく、弥生を助けるために他の同僚も巻き込んで、夫の死体を解体し完全に証拠隠滅するという、恐ろしい計画を立てるのでした。

 

この夫が通っていたバカラ賭博場の経営者、(佐竹光義)

ストーリーの大動脈は、この男、佐竹光義と香取雅子の闘いだと言えます。

情報戦、心理戦、そして深い精神面でも。

 

佐竹は、敵の存在そのものを確認する作業からスタートし、ようやく雅子にたどり着くのですが、このあたりは本当にスリリングです。

読者は、佐竹と同じ根気の強さで読み進めていかなければなりません。

 

いろんな人物が登場し、雅子の敵なのか味方なのか、味方であっても信用できるのか心労が絶えない。

はじめから終わりまで張りつめた緊張感で満たされています。

 

出典:Renato Marques Unsplash

 

話の面白さは、グロさの向こうの立ち入りたくない精神世界までが表現されていて、つくづく感心させられました。

具体的な内容を書くとネタバレでもあるし、それを書く場でもないと思うので止めておきます。

ただこのような内面性は、とても共感出来るものでないにせよ、白か黒かの、そんな割り切った事柄でもありません。

 

香取雅子たちが初めて死体を解体する場面、

読み進めるまでは、映像的に言えばぼかしをかけ、断片的に編集してあるのかと思いきや、しっかりピントを合わせカットを積み重ねて書かれています。

本を適当に選んで読みだした私が甘かった。

この部分の説明だけでも、この小説の緻密さや濃密さが分かってもらえると思います。

 

園子温監督の映画、『冷たい熱帯魚』のグロいシーンは、もしかしてこの小説の影響があるのかな?

 

映画化もドラマ化もされているようですが、私はおそらく観ないでしょう。

映像化されても、この小説を超えられるとは考えられないのです。

 

そんなことを思わせる作家、桐野夏生。 凄いですよね。

 

ではまた、次の記事でお会いしましょう

 

2022年3月19日 記