南紀ローカル通信

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古式捕鯨を実体験できる小説『巨鯨の海』

こんにちは、「南紀ローカル通信」の枯木屋ユージンです

 

今回の、本の紹介は小説『巨鯨の海』です

 

2013年 出版

伊藤潤 著

 

和歌山県東牟婁郡太地町梶取埼灯台

 

時空的には決して体感することの出来ない世界、古式捕鯨

 

江戸時代末から明治初期にかけて、紀伊半島太地を舞台に、組織としてクジラ漁を行う人々を描いた連作短編小説集。

 

ほんの幼い頃は、

クジラと言えば祖母が焼いてくれるステーキだったり、近所の食堂の尾身(オノミ)定食だったり、そんな記憶がありますが、いつの頃からか食べなくなり、鯨という単語自体を聴くこともなくなっていました。

 

しかし、もう三十年ほど前に、ここ和歌山県白浜町に移住してみると、捕鯨の町【太地】は目と鼻の先にあるように感じます。

 

だから、この小説『巨鯨の海』が本屋さんで目に飛び込んできたのでしょう。

 

巨鯨の海』を読む以前に、ザトウクジラも見たことがあったし、太地町立【くじらの博物館】にも行っています。

 

太地町立くじらの博物館

 

 

そういった視点で読むからなのでしょうが、この小説の迫力は半端なものではありません。

 

古式捕鯨という、時空的には決して体感することの出来ない世界が、ありありと感じ取れて、まるで自分も勢子船に乗っている錯覚を起こしそうです。

 

恥ずかしい話ですが、

白浜町に移住してくるまで、昔の日本の捕鯨はクジラを追い込んで、まず網で捕らえる【網取り式捕鯨】であることすら、知らなかった。

 

読んだ後、また太地へ車を走らせました。

 

クジラ漁の山見台である【燈明崎】で沖を眺めたり、博物館展示の【手形包丁】などを見ると、前回来た時とは打って変わり、身の引き締まる思いとなりました。

 

【手形包丁】クジラの鼻切りに使われた

 

これは漁そのものの厳しさに加えて、著者本人が書いておられるように、現代に通じる組織社会の厳しさも、同時に見てしまうからなのでしょうか。

 

【伊藤潤公式サイト】 https://x.gd/t7uq9

 

 

歴史、人、土地、海、文化、野生

そんな事を一緒くたに感じさせてくれる日帰り旅行。

考えてみると、これほど贅沢な小旅行もないかもしれません。

いつかは、好きな場所で寝泊まり出来る車中泊をして、もっと太地を満喫してみようと考えています。

 

太地町立くじらの博物館



ちなみに、津本陽 作 小説『深重の海

これも太地が舞台の古式捕鯨の物語で、この小説に触発された伊藤潤が、巨鯨の海を書いたと言います。

読んでみて、なるほどそうかと深く感心しました。   

 

明治十一年(大背美流れ)と言われる、太地クジラ漁の船団が遭難した事実を題材にした小説。

巨鯨の海』で言えば最終話『弥惣平の鐘』と同じ題材。

 

深重の海』のなかに書かれてあるワンシーン。

巨大な背美鯨が太地の捕鯨船団に追われ、傷つき、その時に吹き上げた血潮が、強風で紀州半島の山中にまで達する描写は、言いようのない不安に包まれます。

 

背美鯨も、漁師たちも、太地の陸にいる人々も、ここから悲劇が始まるのです。

 

そんな訳で、深重の海も、巨鯨の海に負けず劣らずおすすめですが、ただ巨鯨の海より本当に(深重)なので、読む前に心しておいてください。

 

勢子船

 

ではまた、次の記事でお会いしましょう

 

2022年3月26日 記