こんにちは、「南紀ローカル通信」の枯木屋ユージンです
以前の記事、『和歌山県白浜町に移住した理由』の中で、田舎へ移住して失業してしまうと、それはそれは大変ですと言いました。
逆に考えれば、収入さえ確保出来ればいいのだと。
私はそれが出来なかった為に、1〜2年の間いくつかのアルバイトで食いつないでいました。
これは個人的成り行きなので、田舎へ移住する為の参考になる事は一切ありません。
ただただ、ちょっとした苦労話を聞いて貰いたいだけなんです。
エピソード2の今回は、アダルトビデオ店です
人それぞれの性的嗜好
199△年
もうそろそろ秋という季節。相変わらず、職探しをしていました。
そんな日の朝、「明光堂書店(仮名)オープニングスタッフ募集」の新聞広告チラシを見つけました。
時給は、この地域にしては比較的良い方です。
しかし、チラシに書かれてある勤務地の辺りを何度も車で通っていますが、それらしい物が思い当たりません。
それに、すぐそばには大手の書店があります。
とりあえず、面接だけでもと思って電話を入れてみました。
チラシにあった住所に到着してみると、そこは以前コンビニのあった場所です。
おそるおそる中へ入ってみると、店内は組み立て途中の商品棚で一杯です。
驚いたのは、これから面接を受けようとする人たちが、10人以上並んでいることでした。
こんなバイトの面接に、人が群がっているのか。当時も不況不況と言われている最中でした。
中小企業の部長さんといった感じの人から、学生風の人など色々です。
その中に、なんと見知った顔が二人いました。
一人は、有名メーカーの工場で働いていた若い人で、リストラに合い実家に戻って来た男性Aさん。
以前、地域の集会に出席した時、Aさんのお父さんが「折角いいところに就職したのに」と言って嘆いていたのを覚えていたのです。
Aさんは、私の顔を見てもどこの誰かも気付きません。ホッとしました。
それに後で分かった事ですが、Aさんは面接で不合格になったようです。
もう一人は、スーパーのバイトをしていた時に一緒だった、レジ担当の主婦、Bさんです。
お互い「あら〜」という感じで立ち話になりました。
Bさんの話によると、ここは本屋さんでなくてアダルトビデオ店らしいという事です。
なるほど、それで時間給が少しいいのか。
Bさんは悩んでいました。
スーパーのバイトと掛け持ちしても時間のやりくりは出来るけど、アダルトビデオは主婦として働きづらいと。
それは無理もないことです。
あっちを見てもこっちを見ても、生活が大変な人ばっかりだ。パートの掛け持ちをしている人は、ザラにいます。
その後Bさんは面接に合格し何日か店に出ましたが、結局辞めてしまいました。
自分が働きづらいことよりも、お客さんが買い物しづらそうで申し訳ないと。
いくらオバサンでも女である自分を見ただけで、若い男の子はそわそわしてしまうらしいのです。
なかなかいい仕事は見つかりません。
Bさんは、「とりあえずスーパーのレジ打ち頑張っとくわ」と言っていました。
話は戻り、
自分の順番が回ってきました。
面接を担当してくれたのは、熟年の社長とその奥さん。
二人は気さくで、やっぱり商売している感じの人だなという印象です。例えば町の酒屋さんや飲食店の経営者のように。
三重県に3店舗出していて、和歌山にも立ち上げたという事でした。
社長は治療中なのか前歯がなく、それを気にして手で半ば口を隠しながら、念を押されたのは「枯木屋さん、アダルトビデオ店ですよ。大丈夫ですか?」ということでした。
「ええ、大丈夫です」と答えて、面接は終了。
家に戻ると早速電話があり、もう明日から来て開店準備を手伝って欲しいとのこと。
かくして、人生初のアダルトビデオ店勤務が始まりました。
初めの二日間は、
文字通り出店準備で、棚の組み立てを完成させ、商品のDVDやVHSテープの搬入に終始しました。
これがなかなか重労働でしたが、神経を使う訳でもなく気楽なものです。
それに、社長夫妻が私を含めた新規のバイト3人を、ファミレスでランチをご馳走してくれたりと、助かりました。
奥さんは、バイトたちの家族構成やらを結構突っ込んで聞いてきます。典型的な、おばちゃんの感じで。
ただ、曲がりなりにも社長夫人なので、服装は派手ではありませんがシャキッとしていて、財布はクレジットカードやポイントカードでパンパン。
私はそれを指差して「分厚いですね」と言うと、「私、ポイントカード大好きやねん」と無邪気に笑っています。
社長は、やっぱり手で口を隠しながらランチを食べています。
嚙みにくそうだし、少しはバイト相手に雑談もしなければならず、忙しそうでこっちの方が気を使う。
三日目から、
店員として働き始めました。
勤務時間は開店前の10時から夕方5時までで、忙しくなるのは交替前の4時頃から。
神経を使うのはレジでお金を扱う時くらいです。私は計算に弱い。
店内で一人、アダルトDVDに囲まれてお弁当を食べたり、ボーッと本を読んだりして過ごす時間は嫌いではありませんでした。
お客さんは殆ど若い男性で、普通に買い物するようにDVDを買っていってくれます。中にはレジで緊張した顔の人もいましたが。
そんなある日、数本のDVDを持って「これ、お願いします」と言ってカウンターに来たお客さんを見て、驚きました。
見知った顔の若者だったからです。
私はあまり物覚えが良くありません。その時の事柄はしっかり記憶していても、それが冬だったか夏だったかを忘れていたりします。
そのくせ困ったことに、なぜか人の顔は絶対覚えているのです。
この若者は、白浜の某レジャー施設のスタッフでした。
そこへ家族で訪れた時、幼い娘を遊具で遊ばせるのに、親切にしてくれた人です。
ドキッとしましたが、向こうは私の顔なんか覚えているはずありません。
本数を数えてDVDを不透明のビニール袋に入れる時、無意識であっても、どんなタイプの作品かが眼に入り分かってしまいます。
どのDVDも、美人で若い女性の一般的なジャンルの物でした。
ありがとうございました、と言って椅子に座り「そうか、あの若者はこういう女のコがタイプなのか」と思いました。
そのあと何故か、「だからなんだ、それがどうしたのだ」と、ぼんやり考えていました。
それにしても、この狭い空間で、よくこれだけ知った顔を見るものだな。田舎は世間が狭いと言われるけれど。
そこで何だか不安になりました。
もしかしたら、これからも知った顔の人が来るのではないか。自分はそれでも全然いいのだけれど、相手も私を知っている人なら大変気まずい思いをさせる事になる。
次の日から念の為、
大きな伊達メガネを掛けて出勤することにしました。現時点ではこれが一番自然な変装です。
穏やかな勤務が何日か続いたある日、大きな紙袋を下げた男性がやってきました。
袋の中身は大量のVHSアダルトビデオです。
先日、明光堂書店が(買取もします)というチラシも打っていたからでしょう。
「これ買取OKですか?」
「大丈夫ですよ」と客を見ると、アッッ!見知った顔です。
以前に、名刺デザインの仕事を貰って、出向いたことのある会社の中年男性でした。
「落ち着け、俺の顔なんか覚えていない。それにしっかり変装しているではないか」
男性は全てのビデオテープをカウンターに積み上げました。
全てのビデオがエロアニメでした。
この状況で、この心理状態で、エロアニメビデオの本数を数えて、現金の受け渡しはキツイ。
しかし、なんとかやり終え、大きく深呼吸しました。メガネを掛けていて本当に良かった。
もし掛けていなかったら、相手がこちらに気付かないとしても、お釣りの金額を間違っていたでしょう。
でも、何故わざわざビデオを売りにやってくるのか? うまく行っても数百円です。
処分に困るのでしょうか。
そうかぁ、あの人はアニメ専門か。
私はこの時、この仕事にも(守秘義務)と言うものがあることに気付きました。
社長には、口を手で隠している暇があったら、そのことを言っておいて欲しかった。
もう絶対にメガネは外せない。
また別の日、
こんどは布袋を持った中年男性がやって来ました。
またもや、見知った顔です。
この人は白浜より南にある観光施設の責任者。
私がこの施設に行った時、写真を撮っていると、この人もカメラ好きのようで少し話をしたから覚えていたのです。
布袋の中身を見るとすべてVHSテープでした。
「引き取ってくれたら、お金いらないよ」
そんな訳にもいかず、店で決められている通りに計算し、数百円渡しました。やっぱり処分に困るのでしょうか?
ジャンルは全てSM物でした。
ん〜、この人はSMかぁ~
本人が目の前に立っているのに、その場でそんな事を思いました。
私も多少落ち着いて対処出来るようになってきたのです。
そしてまた別の日、
熟年と言っていい年格好の男性がやって来ました。
アリャ、またもや見知った顔です。
数か月前、ちょっとした用事で公的機関に出向いたとき、対応してくれた人だったのです。
この人の顔は本当によく覚えています。なぜかと言えば、失礼ですが鼻がやたら大きくて。
段ボール箱を抱えていました。
「これ引き取ってよ」と、穏やかに言います。
まさかと思い、もう一度鼻を凝視しましたが、間違いありません。
私は場慣れしてきたせいか、笑いがこみ上げてきます。鼻にではなく、こんな状況がこんなにも多くある事に。
ますます笑いがこみ上げて来ました。ジャンルそのものにではなく、こんなにまで人それぞれに、エロスへの好みが徹底されていることに。
緊張と笑いが一緒になった精神状態にも負けず、お釣りも間違わずに返却することが出来ました。
お客さんが帰って一人になると、大笑いしてしまうのかと思いましたが、まったくそんな事はありませんでした。
「イヤ〜、人間色々と面白いなぁ」と、感心していたのです。
もし自分のエロスをとことん追求して行ったら、いったいどんなジャンルになるのだろうか?
他人には、何の関心もなくバカバカしいことですが、自分個人としては楽しい疑問でもあります。
現時点では、上記の人たちほどの明確な方向性は掴めません。
という訳で、私にとっては、なかなか楽ちんで、なかなか感慨深いバイト体験でした。
今となっては、良い思い出となっています。
いかがでしたか?
『人それぞれの性的嗜好』は以上です。
ではまた、次の記事でお会いしましょう。
2022年6月7日 記
追記
この記事で使用しているイラストは、この記事の為に自分で描いた物なんです。
ネット上のフリー画像では、品がなくなってしまったりとか、適した物が見当たりませんでした。
ついでに、何年も前から放置しておいた、オリジナルグッズ&Tシャツ販売のサイトにもアップしました。有効利用しなければなりません。
もし気が向けば、閲覧してください。
2023年5月