南紀ローカル通信

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こんな映画が観たかった! 映画『グリーンブック』

こんにちは、「南紀ローカル通信」の枯木屋ユージンです

 

今回は、ピーター・ファレリー監督の映画『グリーンブック』のレビューです。

 

公開:2018年(アメリカ合衆国

監督:ピーター・ファレリー

脚本:ニック・ヴァレロンガ、ブライアン・ヘインズ・カリー

出演:トニー・リップ・ヴァレロンガ(ヴィゴ・モーテンセン)、ドン・シャーリー(マハーシャラ・アリ)、ドロレス・ヴァレロンガ(リンダ・カーデリーニ)

 

        出典:Dave Hoefler Unsplash

 

私にとってのベストワン

こんな映画が観たかった!

始まってしばらくすると、そう思いました。

この何年かの間で(いや10年以上か?)

私にとってのベストワンです。

 

実話をもとに作られたストーリー

1962年、(トニー・リップ)はニューヨークのナイトクラブで用心棒として働いていましたが、改装工事のため失業。

しかし著名なピアニストの(ドン・シャーリー)に、アメリカ中西部を回るコンサートツアーの運転手兼ボディガードとして雇われます。

 

トニー・リップはイタリア系白人、ドン・シャーリーはアフリカ系黒人。

 

トニー・リップは住居の支払いにも困る下層階級。ドン・シャーリーは、なんとカーネギーホールの上階に住む裕福で著名なピアニスト。あんな所に高級マンションがあるのか?

こんな二人の社会での立ち位置の違い。分かりやすいですね。

 

もう一つは、人を雇う側と雇われる側の対比、お金を出すほうと貰うほう。

 

まだあって、家族がいる男といない男。

 

このふたりの関係は、初めから幾重にもこじれていることになります。

 

当然どんな軋轢が生まれるだろうことは想像がつきます。

 

大雑把で俗っぽいけど、機転が利いて行動力のあるトニー。

繊細でインテリで天才ピアニストのドン・シャーリー。

性格も得意分野も正反対。

 

そんな二人がキャデラックで巡る、旅の物語。

 

人種差別の色濃く残るアメリカ中西部(ディープサウス)を旅して、どうなっていくのか?

 

それはドン・シャーリーの人種差別に対する決意の旅。



この映画の時代

の頃は、人種差別が当然だったことが描かれますが、当然と言うより、しきたりとされています。もっと言えば法律だったようです。

 

今はしきたりや法律ではないでしょうが、断絶が表面化してきたアメリカのニュース映像を見ていると、実質的なことは大いに疑問です。

 

とくに日本人は、どこを見ても同じような顔立ちをしている人ばかりだから、実感しにくくもあります。

 

当時の黒人が、肩身の狭い思いをしないですむ、ホテルや施設を紹介した旅のガイドブック、それが映画の題名になっている「グリーンブック」だと、この映画で初めて知りました。

 

これだけで、どんな映画か読めてくるでしょう?。

そうなんです。そんな映画なんです。

映画を観ていると、予想と違う展開になることと、予想通りの展開になることがありますが、この映画は後者です。

これが本当にイイ。

 

それに私の好きなロードムービーでもある。

 

『グリーンブック』はアカデミー作品賞をはじめ数々の賞を受賞して大ヒットしたらしいのに、私はこの映画の存在すら知らなかった。

 

映画に限らず、本でもなんでも新作を自分から追いかける事を何故かやらない。

Amazon prime videoのホーム画面を開くと、時々紹介が出てくるので、気にはなっていたのですが。

 

この映画は、ジャンルの好みや年齢なんかに関係なく、多くの人が観て良かったと感じる作品になっていると思うのです。

ふだん映画を観ない人も、そして映画にうるさい渋好みの人も。



華やかなナイトクラブ

コパカバーナでの、トニー・リップの仕事っぷりから映画は始まります。

的確にこなしていくのですが結構荒っぽく、こちらが不安になってしまい、その時点でもうすでに映画に引き込まれているのですね。

映像はノスタルジックで華やかですが、ギャング映画の始まりのような雰囲気。

この、トニー・リップの性分が映画のスパイスにもなっていて飽きさせません。

 

でもトニー・リップは、家に帰ると家族思いだし、親戚や近所の住民にもやさしい。

このあたりの描写はさりげなく、ことさらに何かを強調することもありません。

 

ストーリー展開や状況、俳優の演技を丹念に積み重ねてゆきます。

これこそが映画全編を通しての軸となっていて、よけい暖かみを感じてしまう。

どこかの国のテレビドラマなんかとは違うのです。

 

特に、主人公ふたりのやりとりは、人種差別の問題だけに収まるはずもなく、マナーや日常生活での感性も対立します。

こんなシーンの積み重ねで、それを細かく説明していると、ストーリー全部を説明することになるので止めましょう。

 

旅のはじめの頃は、お互い失礼でギクシャクしたやり取りです。この状況で本音で言い合うんだなと。 日本人同士ならここで商談不成立だろうと。

 

でも二人のやり取りは、絶妙な掛け合い漫才のようで、可笑しく楽しく飽きません。

 

アメリカやヨーロッパ映画を観ていると、たまに思いますが、喧嘩しながらも自分の考えを伝えて、しかも交渉すらしている。

アクション映画だと殴り合いしながらこれをやっているのです。

 

極端な言い方をしますが、日本人同士の付き合いは、浅くも深くも同調して、まったくケンカしないけど、一旦ケンカしてしまうとそれっきり。 そんな風に感じます。

 

私がこの映画を好きなところは、こう言ったドラマの部分だけでなく、映像のセンス。

カメラアングルも、画面全体の色調も。

ふたりがファストフード店のベンチに座って話している時でさえ、綺麗なんです。

 

この時、トニー・リップが妻(ドロレス)に手紙を書きますが、あまりに下手な手紙なのでドン・シャーリーが口頭で手直しします。

ドン・シャーリーだからそれは美しい手紙に一変しますが、私はトニー・リップの手紙もいいなと思いました。あんな手紙、凡人には書けない。

だからトニー・リップの手紙の半分は原型のまま留めて欲しかった。

 

このようなシーンの積み重ねが、観るものを少しずつ追い込んでゆきます。

作り手は意図していないかもしれないシーンであっても、私の眼はじわっとしていた。

 

出典:Patrick Schneider Unsplash

 

もうひとつの映画の軸

それはドン・シャーリーはピアニストだから、これは音楽映画でもあるわけです。

必然的に演奏シーンが幾つもあってすごく楽しめるし、音楽が二人の関係にも映画の内容にも大きく意味を持って影響してくる。

映画を観ることは実際に楽曲を聴くことになります。

これは、映画にしか表現できない良さではないでしょうか。

 

もうひとつ音楽でいうと、ドン・シャーリーの演奏ではなく、バックに流れる曲。

多分、時代設定当時の曲だと思われますが、これもオシャレだな。

 

旅と音楽と、そこから導かれた友情。

しかし、そんな安っぽい浮いた言葉にしたくない映画。

だけど、すっきり観やすくもある映画。

そこが、なおさら良い映画だと感じさせてくれました。

 

あぁ、良かったな。

 

いかがでしょうか?

と言ってもこれだけだと、映画の内容はそんなに分からないでしょう。

ならばトニー・リップとドン・シャーリーのキャデラックに同乗して、是非一緒に旅をしてみてください。

 

必ず良い旅になるはずです。

 

レビューは以上です。

 

ではまた、次の記事でお会いしましょう

 

2022年1月23日 記