こんにちは、「南紀ローカル通信」の枯木屋ユージンです
今回の、本の紹介は小説『越境』です
1994年 出版
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読書というより格闘か?
この小説をどんなジャンルで括るのかは難しいですが、ピカレスク小説、或いは映画でいうとロードムービー。
いや、どっちの言い方もしっくりこない。
敢えてもうひとつ付け加えるなら、格闘書。
私の数少ない読書量のなかでも、最高の書かもしれない。
しかし、他人に勧めたことはありません。
重くて長くて深いのです。下手に進めると、煙たがられること間違いありません。
人に読書を勧めるとしたら、せいぜい雑誌くらいの物でしょう。
でも、しっかりエンターテイメントだとも思っています。
特に、狼と一緒に旅をするパートは。
主人公(ビリー)は、仕掛けられた罠に捕らえられた狼を救い、家族にも告げず、その狼を連れて一緒にメキシコへ旅立ちます。
旅は過酷極まりないものとなり、いつしか旅そのものが、ビリーの人生そのものとなっていきました。
たった16歳の少年ビリーは、何故こんな過酷で悲しい旅を続けなければならないのか。
もちろんストーリーの中に理由はあるのだけれど。
しかし誰かが強制したわけでも、願ったわけでもない。
その真の理由こそが、この本が書かれた理由ではないか。
では読んだ後、それが説明できるのか? 出来ません。
胸踊り、胸がしめつけられ、深く悲しく、それでも放棄できない一冊。
読み進めばすすむほど、自分が自分自身の中に埋没してゆき、それに反して宇宙に上昇してゆくような不思議な感情を抱きました。
同じく、コーマック・マッカーシー著『すべての美しい馬』の主人公(ジョン・グレイディ)も凄く尊敬してしまった少年だけれど、このビリーはさらに上を行っている。
コーマック・マッカーシーの小説の主人公は何故メキシコを目指すのか、何故メキシコを旅するのか。
不条理や残酷性や良い人間と悪い人間、そして無慈悲で美しい大自然。
メキシコは、そんなことを描く土地として設定されているのでしょうか。
このすべての世界の現実として。
コーマック・マッカーシーの文体は、感情表現もないうえに句読点が極端に少ない。
読みにくくてしかたがない。
でもこれが迫力と現実感を生み、大変な魅力となっています。
特に、この文体で書かれた大自然の描写は美しい。ストーリーに関係なくても。
これほど言葉で自然を描ける人は他にいないのではないか。
読んだことがない人にも分かりやすく言えば(巨大スクリーンで観る8Kタイムラプス)
ただこんな表現は、この作家の文章を汚しそうです。
そんな訳で、この本はいつか再読しようと思っていますが、骨が折れるだろうな。
それでも、読書というシンプルな楽しみを与えてくれる、本当に良い本だと思っています。
話が脇道にそれるようですが、
近頃テレビを観ていると、どのチャンネルもどの時間帯も、芸能人が料理を食べている映像が、流れっぱなしになっているような印象を受けます。
この小説で、主人公が食事するシーンをはっきり覚えているのは一か所。
たまたま通り掛かった貧しい民家のおばさんが、焼いた卵とトルティーヤを出してくれます。
施したおばさんも食べる主人公も、ほぼ無言だったように記憶していますが、わたしは無性にトルティーヤが食べたくなりました。
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ではまた、次の記事でお会いしましょう
2022年3月29日 記