こんにちは、「南紀ローカル通信」の枯木屋ユージンです
2022年 7月現在、
南紀のダイビングショップへ訪れると、どこのショップでも【一頭のバンドウイルカ】の話題が出ていました。
そのバンドウイルカはフレンドリーどころか、ダイバーにすり寄って来たり体当たりを食らわせたりするのだそうです。野生のイルカと出会えて嬉しいどころか恐怖心すら持ってしまうと。
私は幸いにも?遭遇しませんでした。
どうやら繫殖行動の為らしく、相手が人間でもイルカでもお構いなしのようです。
そういった行動はイルカ以外でもたまに目にします。いちばん身近な動物では犬ですよね。
しかし、これが水中でバンドウイルカとなると、やっぱり怖いでしょう。
さて今回の話題はこのバンドウイルカではなく、もう二十数年前の199〇年頃、田辺湾に一時期定住していた、【マイルカ】についてお話しようと思います。
人は楽しい時、酸欠にも気付かない
マイルカのフォルムは美しかった
もう11月に入っていたと思います。
仕事中に近くのダイビングショップから電話が入りました。
「イルカがしばらく、居ついてるんやけど、ボートで出てシュノーケルで一緒に泳いでみんか」と。
私は頭が真っ白になりました。
小笠原や海外の南国やあるまいし、白浜にいて野生のイルカと泳げるとは。
しかし、断りました。
この時取り掛かっていた仕事の納期を、もうこれ以上引き延ばせなかったのです。
電話を切って仕事に戻りましたが、とても手につきません。諦めました。
仕事は、帰ってから徹夜して何とか仕上げよう。
電話をかけ直し、大慌てでショップへ行きました。
この時、悪いことに水中カメラのニコノスⅤが水没して修理中だったのです。しかしショップには白く埃を被ったニコノスⅤがいつからか置いてあって、それを借りることにしました。
ボートを田辺方向に10分ほど走らせると、赤い浮標識(海上の航路標識)が見えてきました。そこにイルカが住み着いていると言うのです。
ボートが浮標識の真横に来ると、なんとイルカがザブンと軽くジャンプして見せたのです。
ゾクッとしました。
遊び相手を待ちわびていたのでしょうか?
魚探では水深30数メートルで、根も岩もない所です。
三点セット(フィン、マスク、シュノーケル)を付けるのももどかしく、そっと海面へ降ります。
するといきなりイルカは私たちのすぐ近くを泳ぎ始めました。
この時の気持ちは夢心地と言っても大げさではありません。
衝突するかと思うくらい、私たちの横スレスレを抜けて行くし、頭上も泳ぐし、股下も通過します。
よくテレビや写真で観るバンドウイルカと明らかにフォルムが違う。
早速、カメラのシャッターを切りましたが、いつものシャッター音ではありませんでした。
何年も使われていなかったカメラなので電池がなくなっているようです。
となると、ニコノスⅤはシャッター速度をマニュアルにしようがAUTにしようが、1/90秒に固定されるはずです。極端な露出不足になるかもしれない。
私はものすごく落胆しましたが、映りはどうあれ撮影を続けました。
マイルカは飽きもせず私たちと遊び続けてくれました。
そうこうしていると、不意に全くイルカの姿が見えなくなりました。
あれっ、と思って下に眼を凝らすと、イルカは海底の砂をつつくような動きをしています。自然のドキュメンタリー番組でも観たことがある、餌を探す行動でした。
「えっ、海底の砂が見えるってどういう事だ、ここは水深30メートル以上あるのに、透明度が10メートルとしても自分はどんな深さにいてるのだろう?」
そう思ったとたん、何故か両の手のひらがピリピリしだしました。
水面を見上げると、太陽が小さく頼りなく輝いています。
一瞬、ウェイトを捨てようと思いましたが、体はすでに力の限りフィンキックを始めていて、数秒後、私の頭は海面を突き破っていました。
仰向けにプカプカ浮きながら何度も深呼吸していると、笑いがこみ上げてきます。
安堵感と幸福感が、同時にやって来たみたいです。
もしかしたら、ブラックアウト直前だったのかもしれません。
浮上する途中でフィンのストラップが切れたりしていたらと、後で考えると本当に怖い。
私はこの後、何年間かのあいだに似たような事を二度やらかしています。
深いところに、ハタなんかを見つけて追いかけ過ぎたりしたのです。どうせ近づけないのに。
シュノーケリングはスクーバに比べて、簡単に気軽にできます。お金も掛かりません。
しかし無理をすると、スクーバより危険なのでしょうね。
自分が感じてる以上に、心臓にも負担が大きいようにも思います。
それにシュノーケリングに行くときは、殆ど一人で出かけているし。
もっと若い時から海遊びを始めて、スキンダイビングを練習して、素潜りの達人とか言われたかったなぁ。
さてフィルムの上がり具合ですが、やっぱり狙ったような写真にはなっていませんでした。
野生のイルカと泳いだ体験は、今のところこの一度だけ。
それでも、この体験があるのとないのとでは、自分的に大違いなんです。
これでマイルカとの思い出話はおしまいです。
ではまた、次の記事でお会いしましょう
2022年8月7日 記
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